座標軸 2021.06

トマトのひとりごと
向野幾世【奈良大学元講師】

 濡れている西日の中のトマト買う 三浦あきら 

 5人家族の台所をあずかって6年目になる。3日と空けずに買い物に出かける。まず立ち寄るのは野菜売り場。旬の野菜を求めたい。根菜は切らしたくない。ボリュームの出る野菜も加えたい。できれば、彩りを添える野菜がほしい。そんなときトマトはいつも目にとまる。実家は農家ではないが、家の前にはトマト畑があった。

 子供の頃、竹で編んだ大きな籠をもってトマトを買いに行くお使い。鮮やかな紅色、淡い赤色、熟しているのやら、いないのやら適当にもぎ取って籠一杯にする。トマトの茎は高さ1メートルほど、幼い私がもぎ取れる物だった。その匂いも大好きだった。

 大学に入ってすぐは寄宿舎生活だったが、その4人部屋の窮屈さに慣れなくて、お金もない私が下宿生活に切り替えた。案の定、食べることさえ事欠く日々、いつもお腹をすかせていた。そんな私の命をつないでくれたのはトマトだった。

 ※詳細は2021年6月号本誌にて。

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